ネット上では、請求書の印鑑は法的には不要という記述も多く見られます。しかしながらビジネスシーンでは請求書の印鑑は事実上必須です。
請求書がいらないと言われていることにも根拠はありますが、多くの場合印鑑のない請求書を発行すること自体は稀なケースになります。
この記事では、請求書に印鑑が必要な理由と、正しい印鑑の押し方について紹介しています。
請求書の印鑑の位置
請求書の印鑑の位置については、法律上などでの決まりは特にないため、自由に扱うことができます。
とはいえ、一般的には社名の右横に角印を押すのが一般的です。
請求書とは
請求書は、金額・請求先の会社名・振込先などの必要事項を記載し、契約時に交わして置いた期日までに支払いを求めるための書類で、商品やサービスを納品した後に発行する証憑(しょうひょう)書類です。
取引金額や取引者が明記されている、法的に取引の証明となる書類の総称です。注文書や請求書などが当てはまり、保管方法や訂正方法に関しても法律によって明確に定められています。
請求書の印鑑を押す場所
先ほども述べた通り、請求書に印鑑を押す場合には、会社名の右横に配置することが一般的です。
請求書をはじめ、見積書や納品書などの証憑書類は、法的な効力を持つ書類にはなりますが、決まった形式などはありません。
そのため、会社名などが右に詰まっていたりする場合には、会社名の近くの空欄などに押すような形でも問題ありません。
こちらも決められたルールではありませんが、公的な書類としての扱いには変わりないので、シャチハタは避けたほうがいいと言えるでしょう。
印鑑の種類
法人で請求書などを発行する際には各印を用いるのが一般的です。
先述の通り、飽くまでも慣習的な理由で利用されているものなので、各印と並んで多用される代表印・銀行印などを使用しても問題はありません。
ただし、どの会社も基本的には角印を使用しているので、特別な事情がない限りは角印を使用するのが無難でしょう。
請求書に印鑑は必要か?
結論から述べると、請求書に印鑑は事実上必要です。
以下では、複数の観点から印鑑を押した請求書の必要性を説明しています。
請求書に印鑑はいらない?
これまで述べてきたように、請求書の発行それ自体には決まった形式や法的根拠はないので、印鑑についても同様に推さなければいけないという決まりはありません。
しかしながら慣習的にも印鑑は押すものであるということに加えて、書類の正当性を担保することに印鑑が有効であるという事実もあります。
請求内容の証明
請求書の有無については確かに、取引の成立に関してはあまり関与しません。しかしながら、売上の計算や納税証明の際に必ず使用する書類の一つにもなるため、請求書を交わさない取引というのは事実上不可能といえるでしょう。
実際に請求金額の食い違いやトラブルの防止などに役立つという面もあり、請求書がないことによる手間を考えると必ずといっていいほど請求書の発行は欠かせないものとなります。
以上のような理由から実際のところは請求書の発行と押印はほとんど必須になります。
発行証明としての印鑑
法的観点からも民事訴訟法には下記のような記載があります。
私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。(民事訴訟法第228条4項)
飲食店の領収書などでも、宛名の記名や押印がされるケースがほとんどであり、印鑑のない請求書が複数あるということは脱税などの不正を疑われる要因にもなり得ます。
印鑑なしの請求書
法的には問題ないはずの印鑑なしの請求書を実際に取引先に送付した場合はどうでしょうか?
大企業などのコンプライアンスが整っている法人では、社内規約として、印鑑なしの書類を受領しないという会社も少なくありません。
印鑑なしの請求書を発行した場合は、少なくない確率で修正や再発行を依頼されると考えた方がいいでしょう。
請求書の訂正については二重請求を防ぐ等の観点から、番号や発行日時、訂正版であることの記載など手間を要するケースが多いため注意が必要です。
個人事業主は請求書の印鑑をどうしているか?
個人事業主の方も上述のような理由から、請求書には印鑑を押すことをおすすめします。
法人と異なるのは法人印のような公的に証明される印鑑がないことが挙げられますが、特に注意する必要はありません。
法人印がない場合、個人印でも大丈夫
個人事業主の場合は、登記申請ではなく開業届の提出の際に印鑑を登録することがないため、いわゆる法人における実印がありません。
個人で印鑑証明を取得した実印はもちろん、ふつうの苗字の彫られた印鑑で代替する方法が一般的です。
角印じゃなくていい
個人事業主の場合は角印や篆書体や楷書体で彫られた印鑑をお持ちでない場合も多いでしょう。
ただしもしお持ちの場合は、これらの印鑑は複雑かつ、三文判と言われる一般に流通しているものとの差別化から信頼性が高いとされるため、ご使用をお勧めします。
屋号印
個人事業主の中には屋号をお持ちの方もいらっしゃいます。屋号で印鑑を作成している場合はそちらを利用するのがいいでしょう。
個人事業主が利用する事業用の名前のこと。店舗を構えている場合は店舗名などを屋号にすることが多い。
フリーランスの請求書の印鑑
ここでいうフリーランスは個人事業主はもちろん開業届を出していない個人の方も含みます。
フリーランスの方は、公的な印鑑をお持ちでないという点では個人事業主と同じなので、同様に個人印を押した請求書を発行することになるでしょう。
電子請求書と電子印鑑
データとしての請求書と電子印鑑
データとして発行された電子請求書や電子印鑑についても、基本的に紙媒体での請求書と印鑑の扱いと変わりません。
電子印鑑を用いる場合でも通常の印鑑同様、民事訴訟法の「本人の署名もしくは押印」として認められます。
個人の場合は個人名、法人の場合は法人名がある電子印鑑を使用し、印影は登記に使用したものと一致していなくても構いません。
帳票作成システムを利用する場合
請求書を発行できるクラウドサービスやシステムを導入している場合では、電子印鑑を押してくれる機能が備わっていることがほとんどのため、そのままシステムの機能を利用して請求書を発行することができます。
PDFの請求書と印鑑
一方で、エクセルなどを使用して請求書データをご自身で作成されている場合には、pngやjpgなどの画像を添付したPDFファイルとして出力する方法が多いです。
その場合でも問題なく印鑑としての役割を果たしてくれるので、問題なく請求書を発行することができます。
電子請求書の保管方法
電子請求書には保管の方法にも法的な決まりがあります。近年は電子帳簿保存法の改正も重なり、ご存知でない方はこちらも併せて理解することをおすすめします。
電子帳簿保存法
正式名称を「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」といい、請求書を含む書類の保管方法について定めた法律です。
請求書の保管については電子帳簿保存法が定める保管方法に準ずる必要があります。紙媒体での保管については、近年の法改正により今まで通り印刷してファイリングしておくことが難しくなりました。
プリントアウトした書類
電子帳簿保存法では、電子データの書類をプリントアウトした場合、法律で決められた要件では原則、電子データで送受信された帳簿・書類を印刷して保管したとしても、法的には意味のない書類となってしまいます。
反対に、紙の帳簿や書類をスキャナー等を使用して、電子データとして保管することは可能です。
発行日時や改竄されていないことを担保し速やかな表示と出力を担保する必要があり、タイムスタンプや訂正・削除に対する対応なども義務付けられています。
発注書の正しい保管方法
今日手書きや郵送で発注書をやり取りする機会は稀になっています。そのため、電子データとしての請求書を扱うことがほとんどのため、電子帳簿保存法に則した保管が実質必須と言えるでしょう。
ご自身や会社のパソコン上に保存しておくだけでは不十分な場合も多く、多くの企業で電子帳簿保存法に対応したシステムが導入されています。
インボイス制度
インボイス制度は、「売手が買手に対して、正確な適用税率や消費税額等を伝えるもの」(引用元:国税庁)で、「適格請求書発行事業者登録番号」によって管理されます。
つまりこれからの個人事業主は原則課税事業者として、所轄の税務署長に登録申請して、インボイス制度の登録番号を請求書に明記する必要があります。
これまで売上1000万円以下の事業主は消費税の免除があったため、この状態を非課税事業と言います。反対に、インボイス制度に登録することで売上の金額に関わらず、消費税の納税義務があるため課税事業者となります。
電子帳簿保存法との関係
電子帳簿保存法とインボイス制度自体は、それぞれ独立した制度です。しかし2023~2024年にかけて、導入や改正のタイミングが重なり、多くの個人事業主や法人が意識している問題となっています。
理由としては主に以下の2点が挙げられます。
- インボイス制度の導入により、請求書の作成に注意が必要になったこと
- 電子帳簿保存法も請求書含めて多くの帳簿や書類の保管に注意が必要になったこと
インボイス制度の導入後は、ほとんどの企業が新しく発行される適格請求書発行事業者登録番号を請求書に記載する義務があります。
そのため、請求書の発行と保管・管理の方法にクラウドサービス等を利用した早急な対応が求められることになりました。反対に、一度電子帳簿保存法とインボイス制度両方に対応したシステムを導入してしまえばそれぞれ簡単に制度に対応することができます。
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